「片目を閉じて、指先で月に触ってごらん。」
そのピエロは、子どもたちに言った。
子供たちは夜空に向けて手を上げ、人差し指でそっと月に触れる。
満月の大きさは、親指のツメと同じくらいの大きさだろうか。
指先で触れてみると、白く光りを放っている珠のよう。
すごく明るい。
ピエロはゆっくり手を持ち上げ、空に浮かぶ満月をつまむ格好をした。
と、その瞬間。つまんだ月が、ピエロの指先に移っていた。
空の月は、消えていた。
*
指先の小さな光の珠で、ぼんやりと辺りが照らされている。
子どもたちは、息をのんで、じっと見つめている。
ピエロが指をそっと開くと、小さな光は、そのまま空中に浮かんだ。
ピエロの手の動きに合わせるかのように、光の珠はふわふわと遊泳した。
両手の指で輪をつくり、珠の周りをくぐらせる。糸も磁石でもなさそう。
光が、本当に生きているかのようだ。
ピエロが自分の胸ポケットを指差すと、光の珠は、すっとポケットに入っていった。
服の生地を透けて、光っているのがわかる。
光の珠は、ポケットの中で休憩中だろうか。
胸ポケットをポンポンと叩くと、また光は空中へ出てきた。
もうお別れの時間。
白く光る珠は、空中へと高く浮かびあがる。
と、その一瞬、またもとの月に戻っていた。
*
空には、何事もなかったかのような満月。
何億年も同じ軌道の公転を続けている月の、ちょっとした遊びだろうか。
ピエロは、子どもたちに向かって、一礼。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
出身大学の鈴木先生のブログにヒントを得て、上記のようなマジックを考えた。
持っているマジック用具を使えば、ほぼ実演が可能。
あとは、「月」の消し方のアイディアだけだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マジックは、いかさまか?
ピエロは、詐欺師か?
フィクションは、もう終わりだろうか?
否。
特に「子どもたち」のことを考えると、
僕たちはまだ、ファンタジーを忘れてはいけない。
そう思っている。