15・16日と、JIAの建築ツアーに参加した。
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茅野市美術館・ホール(古谷誠章)
藤森照信の講演に来たことがあり今回は2度目。鉄のフラットバーと板ガラスによる手スリの、コーナー部分つくり方に惹かれた。もう一つ、駅の反対側のエントランスのステンレス製自動ドアに30mmくらいの円柱型のアクリルがはめ込まれており、これにも惹かれた。
八ヶ岳音楽堂(吉村順三)
吉村順三の晩年の作品。まず「外」が素晴らしい。アプローチの道からの建物の見え方、周囲の芝生の丘、木立、その向こうに見える八ヶ岳。ホール側は、少し低くなる地形に合わせて、建物の床レベルが変わっている。ホールの内部空間がまた素晴らしい。ホール中央部は、階段2段分彫り込まれている。たった2段だが、これもミソかもしれない。水平方向の開口からは景色が見渡せ、上部は木質の屋根に包まれている。ホール中央部の椅子に座ったときが最もよい空間体験となった。
八ヶ岳ロッジ(吉村順三)
エントランスロビーを進んだ正面に暖炉。その暖炉の向こう側へ3段降りると喫茶店。周囲が雪に覆われた冬の日、ここのロッキングチェアに座りながら、暖炉の火を眺めたら、それこそ至福の時であろう。奥の客室へは少しずつ床レベルが上がっていっている。吉村順三は地形をそのまま生かす人とみた。
竹早山荘(吉村順三)
宿泊場所も吉村順三の設計。玄関から食堂へ入った正面がやはり暖炉。夜に火を囲うよさはもちろんのこと、朝起きて食堂へ行った時に、この暖炉に火が入っていてたことは、なんとも嬉しかった。そして、燃える薪とオレンジ色に揺らめく炭をみているのは、何よりも素晴らしかった。
山荘の人たちの言葉を聞いていると、本当にこの建物・場所を好きなんだなとわかる。「建築」的にはほとんど取り上げられないこの建物も、別れが惜しくなるような場所となった。
JIAの方々との夕食・宴会
特筆すべきは、住工房の小栗さんだ。名古屋で吉村順三展を開催した人であり、この震災を受けて、今、川合健二を見つめ直したいと語っていた。建築設計をしている僕らは何もできていない、このことを認め、川合健二にこの先のヒントを見ようとしている。アツい人だった。JIAの河村たかしか。夕食後も夜な夜な飲んでいたが、小栗さんより先には寝てはダメだと決め、話しを聞いた。
もう一人、中建築設計の徳田さんとも話した。セルフビルドの話しやホームレスの家の話しもしたが、徳田さんは仕事を通しての話しや歴史を踏まえた話しで、大変興味深かった。僕のように考えていたこともあったが今の考えは違う、と話され、そういう意見は今までにないものだった。
石の教会
まず門構えを見て、アレレと思ってしまった。木のフレームをカッコ良く並べたもの。少し「デザイン」しすぎでは。この感覚は、石の教会内部へ入っても続いた。木々に囲まれた遺跡のような印象や、石のアーチと光による内部のイメージがよいものだけに、ちょっと残念でもあった。
夏の家(アントニン・レーモンド)
木の勾配屋根の空間に、「2階へ上がるスロープ」がある。これがうまくいっていた。スロープを歩くとダイナミックに視界が展開していく。スケール感もよい。
セゾン美術館
ランドスケープがよい。芝生の丘に、安田侃らの彫刻が点在している。川もながれ、おおらかな地形のあるランドスケープで、散策していて気持ちがよい。
Y氏別荘
「居場所」とはこういうものなんだろう。1階ピロティも、居間のソファも、ロフトも、屋上テラスも、食堂も、トイレも、どこも素敵な居場所だった。「鳥になったような暮らしができる」一つの棲。
Y氏の娘さんが案内してくれ話しが聞けたことで、この家での生活も垣間見えた。娘さんは「トイレの窓からの景色なんかも、またいいんですよ。」と笑う。その笑顔はまるで、いたずらが成功した子どもの得意げに無邪気に笑うような、本当に楽しく嬉しそうな笑顔だった。
脇田美術館
あいまいな感じはあるものの、色彩と形を見ていて、いいなと思える絵だった。画集も購入した。
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今回の旅行には、カメラを持っていかなかった。これは結果的によかったと思う。
吉村順三の建築にある、居心地のよさ、は写真ではなかなか撮れない。
その場所に居ることを大事にするには、「写真的な目」を持たない方がいい。
藤森照信は、吉村順三の建築の特徴を「普通さ」と言った。
この「普通さ」の心地よさを味わうには、カメラも、建築知識も、何も持たないのが一番いいのかもしれないと感じた。